「スピード感をもって」「しっかりと」を空疎な言葉にしないで

投稿者:nakajima 投稿日時:日, 2020-04-05 14:31

 3月下旬だった。神奈川新聞によると、川崎市で43歳の無職の女性がコンビニの店員に対して包丁を押しつけて、「1万円ください」と脅したが、店員の通報で金をとらずに逃走し、その後、逮捕されるという事件が起きた。「ください」という言葉遣いや通報されてすぐにびっくりして逃げたことなどから、犯罪になれた人物とは思えない。詳報がない(毎日新聞はWEBでは容が削除、NHKも閲覧できない)ので事情は分からないが、金額の少なさからみて、よほど金銭に窮迫していたのだろうと胸の痛みを抑えられない。
 新型コロナウイルスによる突然の「経済の停止」によって、明日のお金どころか、今日のお金にも困っている世帯が大量に発生しつつあるのが現状である。
 月給制のサラリーマン世帯でも来月の給与が支払われるか不安だろうが、非正規雇用やアルバイトで日給制のぎりぎりの生活をしている世帯は事態が深刻である。通常でも不安なのに、出口の見えないコロナによる経済危機である。フリーランス、シングルマザー、劇団員、飲食業従業員など、あちらこちらで悲鳴が上がっている。
 「一人10万円ずつ、全員に給付する」と、政府の経済対策が伝えられた時には、迅速に配るには無条件が最善なので良策だと思ったが、やはりどこかでブレーキがかかった。
4月4日の日経新聞報道によると「給付額は1世帯あたり30万円とする」「減収後の月収が一定の基準を下回る世帯に対象を絞り」「希望する人が市町村に自己申告して受け取る」。「政府は7日にも」「緊急経済対策を閣議決定する」「裏付けとなる補正予算案を月内に成立させ」「早期の現金給付の開始をめざす」。無条件は吹き飛び、条件だらけである。
驚きである。今日の食事にも困ったのだろう、コンビニで「1万円ください」と言って強盗未遂で逮捕される人がいるというのに、「月内にも補正予算を成立」させるというのんびりした対応で、これで「早期の現金給付」ができるはずはない。細かい条件を市町村に伝達し、窓口の担当者に周知するまでにどれだけ時間がかかるのか。
もっと絶望的にさせるのは「支給対象とする月収の水準について、政府は夫婦2人の世帯の場合、25万円未満とする案などを与党側と調整している」という。「月収を25万円未満とする」と決めたとたんに、「25万円未満である証明書を持ってこい」と窓口で住民に要求する担当者の冷たい声が聞こえる。記事の中で政府関係者は「収入減少を証明する書類を提出すれば原則支給を認める」と簡単に言っているが証明書類を整えるのは簡単ではない。提出した書類で果たして証明になるのか。申請者が殺到し、コロナのウイルスが飛び散る市町村の窓口で、激しい押し問答が繰り広げられる。無条件にしないからこうなる。
「規則を厳格に守り」「不正のない公平な行政」を推進する公務員の方々の高い意識は尊いが、その意識は倒産の危険のない「親方日の丸」をバックにし、生活に危急感がない方々の「善良」な意識である。今日の食事に事欠く生活者の意識とはかけ離れている。
困窮世帯への給付金とともに「中小企業や個人事業主の給付金」も実行されるようだが、ここでも「減収の証明書」が必要になる。コロナのウイルスが飛び散る窓口で同様の押し問答の光景が繰り広げられるかと思うと絶望的にならざるを得ない。
政治、行政の方々の発言を聞くと「スピード感をもって」「しっかりと」という形容句の連発である。「スピード感」「しっかり」という言葉が空疎なものになってしまった。
疾病対策から経済問題・生活問題へと変容した新型コロナとの闘いは、「国難」というより「地球難」「人類難」へと深まった。市町村の窓口の皆さんには、そうした危機意識から、個人の生活や個人事業主、中小企業の命を救うために本当に「スピード感」をもって、「しっかり」と対応してもらいたい、と早急に意識改革を遂げてもらうよう、心から願うばかりである。